条項は,必ず賃貸借契約に付随して定められるものであり, しかも,それ自身の対価がほとんど想定できないことからすれば,上記 (ア)のように,賃貸借契約における賃借人の債務に関する民法601条 の規定を,消費者契約法10条の「民法,商法その他の法律の公の秩序 に関しない規定」,すなわち,与えられた法的基準として考えることが できるのであり,つまり,本件更新料条項は,当事者の全くの自由には 委ねられていないと考えられるものである。
したがって,本件更新料条 項が,仮に市場メカニズムによって機能し,当事者の主観的意思が関与 している条項であるといえたとしても,この点は同条前段の適用に関し 障害とならないといえる。
ウ後段要件該当性 (ア) 検討の前提 消費者契約法10条は,その後段において,同条により無効となる条 項を,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を 一方的に害するもの」と規定している。
この「消費者の利益を一方的に害する」とは,消費者契約法の目的 (同法1条)等に照らせば,消費者と事業者との間の情報の質及び量, 交渉力の格差を背景として,消費者が誤認又は困惑するような状況に置 かれるなどして,消費者の法的に保護されている利益を,信義則に反す る程度に,両当事者の衡平を損なう形で侵害することをいうものと解さ れる。
(イ) 次に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ る。
a 国土交通省が,平成19年3月,財団法人日本賃貸住宅管理協会の 会員である賃貸住宅管理会社を対象に行った民間賃貸住宅に係る実態 調査の結果(乙19)によると,更新料の徴収は全国的に行われてい るが,大阪府,兵庫県のように,全く更新料の支払がされていない地 域もあり,京都府においては,平成17年4月から平成18年3月の 間にされた居住用住宅の賃貸借契約のうち更新料が徴収されている物 件は,55.1パーセントである。
b 更新料に関する情報 インターネットや情報誌等の賃貸情報では,更新料が記載されてい るものも,記載されていないものも見受けられる上,同じ物件であっ ても,インターネットのサイトによって,更新料が記載されたりされ なかったりしている場合もあるほか,被告会社自身のホームページ上 でも,更新料についての記載がない場合がある(甲14〜24,28, 乙20,29〜50)。
このように,更新料の情報についての状況は 一様ではない。
(ウ) 検討 a 情報及び交渉力の格差 被告会社の主張するとおり,賃借人は,賃貸物件の情報を,インタ ーネットや情報誌等の賃貸物件情報により,容易に大量に入手できる ことは明らかである。
そして,上記(イ)bによれば,更新料の有無や 金額につき,選択した物件について必ず情報があるとは限らないもの の,一定程度は,インターネットや情報誌等で情報を得ることができ る状況にある。
そうすると,少なくとも更新料に関する情報の量の点では,原告と 被告会社には大きな格差は存在しないということができる。
しかしながら,通常,一般の賃借人は,賃貸借契約上の個々の条項 について,なぜそのような条項が定められているのか,なぜそのよう な金額になっているのかの理由については知らないことも多く,この ような情報の質の観点からは,賃貸人との間に格差が存在することも あり得る。
そして,通常,一般の賃借人が,前記(1)で検討したような 更新料の法的性質というものについて認識しているとは考えられない し,現に,本件更新料条項の性質については,原告と被告会社の間で 認識が一致していたとは認められず,一致していなかった可能性も高 いことは,既に前記(1)イ,ウ,エで検討したとおりである。
そうすると,本件更新料条項に関する情報の質の点では,原告と被 告会社との間に格差があったと認められる。
また,証拠(乙1,9,10)及び弁論の全趣旨によれば,本件に おいて,更新料を徴収すること及びその額については,賃貸人である 被告会社の方であらかじめ決定しており,原告には交渉の余地はなく, 仮にこれが不満であれば本件居室を賃借することを断念せざるを得な かったものと認められ,この意味において,本件更新料条項に関し, 原告と被告会社との間には,交渉力の格差があったと認められる。
被告会社は,情報力と交渉力に格差がない旨主張しているが,以上 の検討結果に照らし,採用できない。
監査請求期間
原告の主張によった場合,原告が主張するように,地方自治法242条2項にいう「当該行為のあった日」とは,当該行為によって直ちに損害が発生するという関係が存在しない場合は損害の発生時点をいうと解するか,一つの契約締結行為について,求める措置の内容に応じて,契約締結日から1年間と,当該職員に対する損害賠償請求権が発生した日から1年間という二つの監査請求期間があると解するほかはないように思われるが,このような解釈は同条項の「当該行為のあった日から1年」との文言と大きく乖離することになり,困難というべきである。
(カ) なお,上記のことを本件についてみると,本件協定が締結された時点では,現実に川崎市が本件各金融機関に損失補償することになるかどうか,また,いつの時点でいかなる金額を支出することになるのかは未確定であったが,住民としては,旧法下においても,その履行の差止めや契約の相手方に対する法律関係の不存在確認を求めて監査請求ないし住民訴訟をすることが可能であったものと考えられる。
この点,差止めの訴えについては,その時点での訴外会社の経営状況等にもよるが,既に本件協定が締結されており,その補償限度額が9億円という高額であることからすれば一応適法な訴えと解されるし,法律関係不存在確認の訴えについては,これができないとする理由はないものと思われる(この点,原告は回復困難な損害が生ずるおそれがある場合にのみ同訴えが許されると主張するが,そのように解すべき根拠はない。)。
b 原告の受けた不利益等 前記(1)で検討したとおり,本件更新料条項は,極めて乏しい対価し かなく,単に更新の際に賃借人が賃貸人に対して支払う金銭という意 味合いが強い,趣旨不明瞭な部分の大きいものであって,一種の贈与 的な性格を有するとも評価できるものである。
そうすると,通常,賃 借人たる原告は,このような性質を知っていれば,更新料は支払いた くないと考えるはずである。
そして,原告がこのような本件更新料条 項の性質について認識していたと認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,更新料を含め,本件賃貸借契約に伴う全体の収支や 経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決めたものと窺われ るが,仮に,本件更新料条項の上記のような性質を認識していれば, 本件居室を賃借しようと判断しなかった可能性もあり,その意味で, 原告は,一種の誤認状態に置かれていたものと評価することができる。
以上によると,原告は,本件更新料条項の性質について一種の誤認 状態に置かれた上で,本件更新料条項について合意し,対価性の乏し い贈与的金銭(金額は更新1回当たり月額賃料の2か月分である7万 6000円)の支払を約束し,実際に支払を行うことになり,法的に 保護された利益を害されたということができる。
c 被告会社の受ける不利益等 本件更新料条項が無効となると,被告会社は既に受領している更新 料を原告に返還することになる。
しかし,これは,上記bの原告の受 けた不利益に対応する利益がなくなるというだけのことであるから, この点は,ここでの検討において考慮すべき被告会社の不利益には当 たらない。
また,被告会社は,本件更新料条項が無効になれば,他の賃貸借関 係にも波及し,既に受領した更新料を返還すべきこととなって,多大 な不利益を受けるなどと主張しているが,これはそもそも本件更新料 条項の効力の有無そのものによって受ける本件賃貸借契約に関する不 利益ではない。
更新料条項それぞれの規定内容,それぞれの契約締結 前後の事情等によって,更新料条項の有効性の判断が事例ごとに異な ることは当然にあり得るのであって,他の賃貸借契約への影響は,単 なる事実上の問題にすぎない。
したがって,被告会社の主張する被告 会社の不利益は,ここでの検討に際し,考慮の対象とはならない。
d 被告会社の主張の検討等 被告会社は,その主張の中で,更新料が社会的に承認されているこ とを強調している。
しかし,仮に更新料一般が社会的に承認されてい るからといって,本件更新料条項の対価性が乏しいことが克服される わけではないし,これが原告の受ける不利益の大小に関係することも ない。
また,被告会社が主張する社会的承認の内容に関して検討して も,上記(イ)aのように,全国一律に更新料の慣習があるというわけ でもないから,本件更新料条項の有効無効の判断に関係する事情とは いえない。
e まとめ 以上によると,本件更新料条項は,原告と被告会社との間の本件更 新料条項に関する情報の質及び交渉力の格差を背景に,その性質につ いて原告が一種の誤認状態に置かれた状況で,原告に,対価性の乏し い相当額の金銭の支払の約束と実際の支払をさせるという重大な不利 益を与え,一方で,賃貸人たる被告会社には何らの不利益も与えてい ないものであるということができ,信義則に反する程度に,衡平を損 なう形で一方的に原告の利益を損なったものということができるから, 後段要件を充足する。
(3) まとめ 以上の検討によれば,本件更新料条項は,消費者契約法10条に該当する ことが明らかであり,同条により無効である。
5 弁済の抗弁について (1) 控訴人は被控訴人らが支給, を受けている管理職手当には本件で請求され ている各手当に相当する分が含まれているとして,被控訴人らの請求はすべ て弁済済みであると主張する。
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